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デッスンの個人日記

デッスンの個人日記

詩集2 ありがとう

       ここに 一つの家のなかに
     一つの椅子がある

     わたしはここに座っていた

     外を見れば
     数多くの人が
     あっちへ行ったり
     こっちへ行ったりして
     行き交っている

     わたしはそのなかの何人かと話し
     彼らをなかに招き入れた

     彼らは椅子を取り出し
     深く腰掛けるものもいれば
     浅く腰掛けるもの
     腰掛けたがすぐに出て行ってしまうもの

     わたしは彼らと話し 笑い 泣いた

     いつしか椅子の数は
     何百という数になった

     それからどれだけ時間がたったのだろう

     ここに一つの家の中に
     数多くの椅子がある

     わたしはいまでも座っていた

     座っているのはわたしだけ

     他の椅子は主を失ったように
     たたずんでいる

     わたしはたくさんの椅子を見て
     外を見た

     外は明るく 青い空がきれいだった

     そんななかを 一匹の鳩が飛んできた
     足に手紙をつけて

     わたしは その手紙を開き 読んだ
     送り主はここに座っていた人の一人だ

     手紙の内容は短く
     「ありがとう おつかれさま」
     これだけだった

     わたしはまた空を見た
     今度は数多くの鳩が飛んできた
     送り主は誰もがここに座っていた者達だ
     誰もが個性的で
     わたしに感謝の言葉を書いて送ってきた

     わたしもみんなに気持ちを込めて手紙を書き
     鳩に括り付け
     送ってあげた

     わたしの目から あるものが流れた

     涙

     前に枯れるほど流したと思っていたのに
     今でも流れる

     わたしは空を見上げた

     前と変らぬ青い空だ

     わたしはみんなに告げた
     聞こえないかもしらない
     届かないかもしれない
     だけどわたしは 言った

     「ありがとう」と・・・


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